LABEL - 航思社(JAPON)
FORMAT - BOOK
盤質：EX- ジャケット: EX-

「足立正生らとともに〈連続射殺魔〉永山則夫の全足跡を追って、網走から札幌・函館・津軽平野・東京・名古屋・京都・大阪・神戸にいたる日本の東半分、さらには香港と、くまなく歩きまわった私たちが、ドキュメンタリー映画とは言いながら、ただひたすら永山則夫の女もまた見たであろうところの各地の風景のみをとりまくって、いわば実景映画とでも自称するほかない奇妙な作品をいまつくりつつあるのは、ひとえに、風景こそが、まずもって私たちに敵対してくる〈権力〉そのものとして意識されたからなのである。おそらく、永山則夫は、風景を切り裂くために、弾丸を発射したに違いないのである。国家権力ならば、風景をば大胆に切断して、たとえば東名高速をぶち抜いてしまう。私たちが、快適なドライブを楽しんだ時、まさにその瞬間に、風景は私たちを呪縛し、〈権力〉は私たちをからめとってしまうのだ。だから、情況も、情け無用の状況も、いまの私たちにとってはどうでもいいのだ、とあえて言っておこう。私たちは、風景をさえ越ええていないのではないか」

「戦後二十年間のその十倍の投資が、日本列島の巨大都市化をますます促進させるであろうことはもはや疑う余地はない。そして、私たちは、この独占の奢り昂った攻勢を日本帝国主義の離陸の合図ではなしに、まさに弔鐘として聞き取る耳をもたねばならぬのだ。私たちは、すでに、風景の均質化のなかで、〈不可視の故郷〉をもとめて都市から都市へと流浪してくる無名大衆の足跡をたどることができた。彼らは、決して「真理は自らのものだとは主張しない。彼らは自らが真理を表していると〈言う〉ことはない。何故なら、彼らこそが真理で〈ある〉からだ」(フランツ・ファノン)。私たちは、おそらく、初めて、わが下層プロレタリアートが階級として形成されつつある転形期に際会している。彼らは、流浪という存在態において都市を占拠しつつ、資本主義の墓堀人として、いまゆったりと浮上を開始した。〈不可視の故郷〉は真制の祭りへの試行のうちに徐々にせりあがりつつある。「必要なものはうっかり出来てしまった偶然的な隙間なのである。"隙間"がありさえすれば、人間は何かを始めるに違いない。人間の欲望と欲望がぶつかりあって、混沌たるカオスの中で、人間は生きる」と水木薫が喝破した条件は、不可避的に到来せざるをえない。必要なのは、下層大衆に「劇的想像力の復権」とやらをお説教することではない。私たち自身が、自らの真理として実現する戦いの渦中へと、風景を越えて旅立つことである」(2013)(イノウエ)

密室・風景・権力/風景としての都市/ゲリラ空間とは何か/組織論をめぐって/子供についての一考察/転形期の構図/奈落への旅の途上で/わが列島、わが風景/映像 風景 言語/不可視のムラの入口で/ユートピアの反語/「風景」と「情況」/ふるさともなく、うたもなく/夜から夜への通底器/机の前の永久革命者/私怨の空間/迷路の奥のコミューン/誰から殺すべきか/野獣と革命/大義について/喪われた祭り/密室のテロル/なぜ風景戦争なのか/出会いと訣れ/天使の誘惑/風景の死滅のために/風景論の起点/風景/あとがき/解説 風景論の現在